雷と言えば暑い夏の夕方に、夕立と伴い発生する夏の風物詩といわれていたが、近年では温暖化等の影響により季節や地域、時間帯などに関係なく発生するようになってきた。
そのため、雷の脅威も増加する傾向にある。高度情報化社会の進展によって使用される機器への過電圧は脆弱化してきている。ひとたび落雷が発生すると、機器の中の電子回路に被害を受ける可能性が高くなってきており、設備の重要性が増す中、機器自体の破壊による損失もさることながら、復旧に時間を要するなどの運用・サービスに対する損失、さらには信頼性の損失という大きな問題に発展してしまう。
気象庁の調べによると雷による年間雷被害金額は約630億円と報告されているが、これには雷が起因となった操業停止やサービス停止にかかわる二次的損害は含まれておらず、これらを含めると年間の被害総額は1,000億円~2,000億円に上るものと推定されている。このように雷の脅威はますます深刻さを増しているが、適切な対処により対策は可能である。
ここでは近年雷害が急増しているネットワークシステムやセキュリティシステム、そして新エネルギーとして注目されている太陽光発電システムの現状とその対策方法を最新のSPD(サージ防護デバイス)を用いて詳しく紹介する。その他、業界の取り組みについても紹介する。
雷の被害が増加する原因として真っ先にあがるものは、情報化社会の進展に伴う情報機器の増加である。小型・高性化した機器は雷の耐性が低下し、被害を受けやすい傾向にある。しかしながら近年では、それ以外の原因に注目が集まっている。その一つに落雷日数の増加がある。気象庁の調べによると、2008年の東京都心の雷観測日数は7月が7日(平年2.3日)、8月が8日(平年2.5日)を記録した。また通年でも24日に達し、1920年の23日の記録を約90年ぶりに更新した。全国的に見ても同様な傾向を示しており、雷観測日数と比例して落雷の被害件数も急増している。
雷観測日数増加の他に、機器のネットワーク化がある。近年被害が急増している監視カメラシステムや火災報知システムなどはシステムのネットワーク化に伴い電源線のほかに制御線や通信線、LAN回線などが接続されており、落雷によりその間に電位差が発生することで機器が破壊される。一般家庭では電話線やアンテナ線が接続されているパソコンや電話機、テレビなどの被害が増えている。このような被害を防止するためにはSPD(サージ防護デバイス)の設置が必要といなってくる。
雷害のメカニズムとしては雷が近くに落ちると雷サージが建物内部の電源線や通信線に侵入することで、機器を破壊する(図1)。
その対策にはSPDを設置する方法がある。SPDとは雷サージを安全に接地へ導く装置である。電源線と通信線に適切なSPDを設置し、お互いのSPDの接地線を機器の接地へ接続することで雷サージをバイパスさせて重要な情報機器を安全に保護する(図2)。 SPDについてはその最新動向を交えて次項で詳しく紹介する。
SPDを用いた対策例として近年被害が急増している「火災報知システム」の方法を紹介する(図3)。火災報知システムは建物内の人間を火災から守るために必要なセキュリティシステムである。システムは各種センサー類の信号・通信線と機器の電源線が中継器盤に接続されている。そのため電源線と信号・通信線に適切なSPDを設置することで対策が可能である。
<図面拡大>
その他に被害が多い「ネットワーク監視カメラシステム」の対策方法を紹介する(図4)。ネットワーク監視カメラシステムは近年、学校やオフィスなどのセキュリティ強化や工場の「見える化」の一環として飛躍的に設置数が増加している。システムは電源線とLAN回線から構成されていることが多く、LAN回線と電源線に適切なSPDを設置することで対策が可能になる。
その他に被害が多い「ネットワーク監視カメラシステム」の対策方法を紹介する(図4)。
<図面拡大>
最近では企業のBCP(事業継続計画)の考え方が普及し、雷害対策の必要性が高まるに伴い、より安全で保守性・信頼性の高い最新の電源用SPD(図5)が開発された。
その特長はSPDに分離器を内蔵することで従来SPDの前段に取り付けていた保守用分離器(MCCB)を設置する必要がなくなり省スペース化を実現した。警報接点信号を電子回路化することで従来機械式にみられた誤動作、不要動作がなくなり、さらに従来はSPD前段のMCCBがトリップしても出なかった警報を発報・表示することが可能になり信頼性が向上した。その他、SPDプラグとベースが分離できるプラグイン形を採用することでSPDプラグが故障・劣化した場合の交換が容易となり保守性が向上した。
また、最近では高速ネットワーク回線(1000Base-T, CAT5e)に対応したシステムや機器が普及している。それらを雷の被害から守るためには高速ネットワークに対応したLAN用SPD(図6)が必要となる。
LANケーブルへの電力供給が可能なPoE(Power over Ethernet)対応の機器も増えているため、高速ネットワークやPoE対応の最新LAN用SPDを選択することが望ましい。
※BCP(事業継続計画) 災害に よる影響度を認識をし、発生時の事業継続を確実にするため、必要な対応策を策定すること (wiki)
近年、低炭素社会の実現に向けて注目される太陽光発電システムや風力発電システムも雷の脅威にさらされている。太陽光を広い敷地に設置した複数のパネルで効率良く発電するメガソーラーなどはパネルや接続箱、パワーコンディショナー(PCS)、各計測器等が別棟で配置されている場合が多く、被害を受けやすい。雷被害が発生すると運用低下や運用停止に陥り、機器の損害のみならず電力供給に対する信頼性も失うことも考えられる。よって太陽光発電システムおいても最適なSPDの設置が必要となる(図7)。
<図面拡大>
風力発電システムは風況の良い山間部や沿岸部にあり、その設備は年々大型化している。ブレード(翼)を含め高さ100m超のものが設置されていることもあり、直撃雷によるブレードの被害が深刻な問題となっている。その他にも制御機器や通信機器の被害も多く、運転停止を余儀なくされるものもある。対策としては、被保護機器の入力部に回線種別に合ったSPDを設置することが必要である。
このような状況をふまえて、雷害対策に関連する企業等によって「日本雷保護システム工業会(JLPA)」や「雷保護システム普及協会(LPSRA)」が設立され、雷保護システムの普及や雷保護システム技能士の育成を目指した活動も行なわれている。特に日本雷保護システム工業会では雷保護システム普及ため、「雷害対策設計ガイド」の発行やその内容についての講習会開催、各種メディアでの執筆活動など積極的に活動している。雷害対策に関連する規格(JIS、IEC規格等)の審議、作成には会員内の多くのメンバーが精力的に取り組んでおり、正しい保護対策の規格化を鋭意進めている。その結果、各分野や業界における具体的な雷保護対策に関する基準や事例作成などへ反映させるため、それぞれの分野より本工業会への研究調査、基準作成などの依頼が次々と舞い込んでおり、それらに対しては全て適切に対応している。
関連リンク
◆特集コラム 落雷から社会を守れ 雷保護システム技能士
雷や地震などの自然災害が多発する昨今。企業のBC(事業継続)を支える上で雷害対策は必要不可欠である。高度に発達した情報化社会において、その被害を防ぐには「雷の音が聞こえたらケーブルを抜く!」という方法は、あまりにも非現実的である。SPDも日々進化しており、今回紹介した最新のSPDによる最適な対策方法で安全に機器やシステムを保護することが可能である。これで雷の被害をおそれる必要はなくなる。
特集 雷の被害を防ぐ~落雷前に雷対策フランクリン・ジャパン「カミナリmobile」~ (2010/07/14) |
特集 雷の被害を防ぐ~希少金属モリブデンの避雷器への応用とあゆみ~ (2010/07/08) |
特集コラム 雷の被害を防ぐ~夏、雷シーズン前の落雷対策~ (2010/05/25) |
2010電設工業展を見る~電設業界最大イベントの今年のみどころ~ (2010/04/28) |
未来の電気工事 EV(電気自動車)急速充電器ってなに? (2010/02/28) |
落雷から社会を守れ 雷保護システム技能士 (2010/01/27) |
最新の大規模集合住宅向け地デジ改修 (2010/01/08) |
現場での「地球温暖化防止活動」を「環境ビジネス」へ (2010/01/08) |